東京大学先端科学技術研究センター 「DO-IT Japan」 2011 小学生プログラムに参加して
夏休み中、らっこKIDSの小4男子が東大先端研「DO-IT Japan」小学生プログラムに参加しました。
D=Diversity 多様性
O=Opportunities 機会
I=Internetworking インターネット活用
T=Technology テクノロジー
それぞれの頭文字をとってDO-IT
同大学先端研の中邑賢龍教授がディレクターを務められる「障害のある、あるいは病気を抱えた学生のための大学・社会体験プログラム」です。
小学生プログラムは8月4、5日の2日間行われ、IT研修を通して学習への自信とリテラシー*を育成する内容になっています。
*リテラシー(literacy)情報機器を利用して、膨大な情報の中から必要な情報を抜き出し活用する能力
具体的には
・読み書きを支援する身近なテクノロジーを発見する
・iPadを使った授業を体験する
・鉛筆を使わないノートのとり方を学ぶ
・第一線で活躍しているプロフェッショナルと対話する
まず、参加した子ども達は「まほうのふでばこ」iPadを使った新しい勉強の仕方を教わります。
そして、読み書きが苦手でも、その苦手さを支援してくれるアプリケーションなどを利用することによって、課題に取り組みやすくなることを知ります。
参加した子ども達は5名。中邑先生や研究員の皆さんのメリハリのある進行で、集中力が維持しにくい小4男子も楽しんで研修に参加できました。
教室では中邑先生だけでなく、特別支援学校の先生でもあり臨床発達心理士でもいらっしゃる河野俊寛先生が、少し距離を置いて常に子ども達を見守ってくださり、保護者にとって非常に心強い態勢でした。
昼食は子ども達はピザパーティーのような形で楽しくいただき、保護者は、中邑先生や河野先生はじめスタッフの先生方や、高校生や大学生スカラー(DO-ITでは参加学生をスカラーと呼びます)の保護者の皆さんとのランチセッション。この時、発達障害だけでなく、様々な障害や病気を抱えながら大学進学を目指す、または目指した子ども達やその保護者の皆さんのご苦労や挑戦について貴重なお話を伺うことができました。大学入試に当たって、具体的にどんなことがバリアになるのかお聞きし、知らないことがたくさんあることに気づきました。
また、このランチセッションで特に印象に残ったことは、参加学生達に寄せる中邑先生の熱い思いです。中邑先生は、学生達には、既に先輩達が進んだ大学を選ぶのではなく、自分が行きたい大学を選ぶように話しているとおっしゃいました。つまり「道筋のついたあとをたどるのではなく、自らが開拓者たれ」「そのための支援は惜しみなくするつもりだ」ということを力強く語られ、そのことにとても感銘を受けました。
子ども達には「トップランナーとの対話」の時間があり、ロボットクリエーターで同センター人間支援工学特任准教授の高橋智隆さんのお話を伺い大興奮!レゴを使ったロボット作りも指導していただき、大満足。
保護者には、医師で同センター特任講師の熊谷晋一郎先生と交流研究員の綾屋紗月さんの公開セッション「自己肯定物語のすすめ」、そして同プログラムのサブ・ディレクター近藤武夫先生の公開セッション「合理的配慮とは・欧米の現状」があり、どちらも聞き応え満点のお話で、こちらも大満足。さらに公開シンポジウムで大学での障害学生支援や受験に関する最新情報を知ることが出来ました。
修了式では、参加したスカラー全員が大勢の聴衆の前で感想を述べて修了証を受け取りました。DO-ITに参加した感想として「未来を変えていくのは私達自身なんだと思いました」と話した高校生の女の子の言葉に胸が熱くなりました。我が子も堂々とそんなことを言える日が来るだろうか、そんな日がくるように応援したいと思いました。スカラー達の話を聞きながら、また、ディレクターの中邑先生や、サブ・ディレクターの巌淵守先生のお話を伺いながら、目頭を押さえておられる保護者の皆さんも少なくない様子でした。
親子ともに充実の2日間。子ども達も仲良くなって、帰宅後もiPadを使って交流をしています。今回のサマープログラムは、18歳までの長い道のりの「スタート」であって、1回限りのイベントではありません。今後もスタッフの先生方や研究員さん達とはメールやfacetimeなどのアプリケーションを使って宿題のやりとりをしたり、困ったことがあると相談をしたり、これから長い間お世話になります。まだ始まったばかりの試みですが、facetimeで研究員さんのお顔を拝見してお話すると、それだけでほっとします。親子だけで向き合うのではない子育ての有難さを強く実感します。
間もなく夏休みが終わり、また格闘の日々が始まります。読み書きが苦手な子ども達が、今回のプログラムに参加したことで、「読み書きが苦手でも勉強は出来る!」という実感をつかめたことは大きな前進ですし、頑張っている先輩達と接する機会を持てたことも大きな励みになることと思います。
が、教育現場では依然として、従来通りのChalk&Talk(板書と口頭での説明)で授業が進行し、宿題は漢字の練習と計算問題が中心。じっと座って話を聞くことが苦手、書くことが苦手、単純作業の繰り返しが苦手な小4男子の闘いがまた始まります。連日の登校しぶりは持病みたいなものと捉えておおらかに付き合ってゆく覚悟です。大切な「まほうのふでばこ」iPadは恐らく、いや、間違いなく当分の間、学校には持っていけないでしょう。でも、ランドセルにiPadを入れて登校できる日がいつか来るでしょうか?
デイジー教科書が導入される辺りから、教育現場での学習環境が変わってくるのでしょうか?もしそうなら、彼が小学校在学中は「まほうのふでばこ」を持っての登校は無理でしょう。
読み書きが苦手な子ども達だけでなく、様々なハンディキャップがある子ども達が、その苦手さのために自信を失ったまま置き去りにされず、学ぶ楽しさを感じられる学校になることを願います。「らっこの会」の「らっこ」は「楽校」からとった言葉。ハンディキャップのある子どもにとって、みんなにとって、彼らの学校が「楽しい学校」になるようにとの願いを込めています。
最後に、どうしても書いておきたかったことが1つあります。DO-IT Japanのスタッフの皆さんの「ひたむきさ」「真剣さ」にとても心打たれたということです。これまでも、またこれからも小さなつまづきに弱気になる日々だと思いますが、この夏、Preciousな(尊い、大切な)応援団に巡り合えたような気持ちです。希望の扉がそこにあったという感じです。
3年前、3人の医師から「お宅のお子さんのような子ども達が学ぶ場所は残念ながら今の日本にはないんですよ」と言われ暗澹たる気持ちになったことが思い出されます。驚くことに、前述の通り、DO-IT Japanの小学生プログラムでは、スカラーの子ども達が18歳になるまで応援が続く予定です。その間、このDO-IT Japanの取り組みが、一部の子ども達のためだけでなく、広く影響力を持つ取り組みになるよう願いつつ、関係者として陰ながらまた微力ながらお役に立ちたいと思っています。
この記事を読んで興味を持ってくださる方がいらしたら、それだけでも嬉しいです。この取り組みを知る方が一人でも増えることがまず必要!
ご参考までにメディアに紹介された記事です。
http://mainichi.jp/select/biz/bizbuz/news/20110805dog00m020057000c.html
http://www.itmedia.co.jp/promobile/articles/1108/08/news050.html
中邑賢龍先生の著書の紹介です。